デザインスプリントに無くてはならないポスト・イット、昨年2020年には、なんと40周年を迎えていました。ポスト・イットが生まれたきっかけは、3M社の科学者スペンサー・シルバー氏が強力な接着剤を開発しようとして生まれた失敗作です。
実験中の失敗作として生み出されたマイクロスフィアと呼ばれる接着剤がポスト・イットの粘着力が弱く何度も着けて剥がせる機能を生み出しました。その当時は役に立たない失敗作として忘れ去られるところでしたが、同僚の科学者が本に挟んだ栞が落ちてしまったことから、この接着力の弱い接着剤の活躍の場を思いついたそうです。
1977年に粘着ノートとして発売開始された商品は、最初はその便利さが伝わらず、さっぱり売れなかったそうです。ところが試供品を配ることによって爆発的に広がりはじめました。商品そのものが口コミで広がる広告効果を持ったものだったのです。
1980年にはポスト・イットという商品名で、日本では1981年に発売が始まりました。そんなポスト・イットの40周年記念商品が現在もいくつか販売されていますが、その中でもオススメなのはデザインスプリントでもよく使われる 75mm x 75mm のポスト・イットの全色、21色全てが一つのパッケージに入っているバージョンです。何個か買いましたが、もったいなくて使えないまま保存してあります。なんて鮮やかなんでしょう!
●イベント紹介:Design Matters 21(Ross Chapman氏登場)
Design Matters 21 (In-Person + Online)は、9月29日から30日の2日間、デンマークのコペンハーゲンで対面とオンライン配信の両方で開催されます。デザインの現場の第一線で活躍されているデザイナーたちの講演とワークショップで構成され、普段表に出てこない豪華メンバーの集まる注目のカンファレンスです。
Design Matters 21 < https://designmatters.io/program/ >
一度、Design Matters が東京で開催された時に参加しました。発表者の方々がとても親しげで、自分たちがそれまでに苦労して身につけてきたノウハウを惜しげもなく披露してくれる様子とホスピタリティに満ち溢れた運営が素晴らしいイベントでした。
オンラインでの参加となると、日本とデンマークの時差が心配です。コペンハーゲンと東京との時差は7時間。コペンハーゲンでの開催時間である朝9時から夜7時は、日本時間の夕方4時から深夜2時までになります。残念ながらライブ配信のみでアーカイブ配信はなさそうです。どんなにテクノロジーが進化しても時差だけはどうにもなりません。けれどもギリギリなんとか眠い目を擦りながらオンラインでも参加できそうな時間帯だと思います。
オンライン参加費は 2,500デンマーククローネ。これは日本円にして43,000円ほど。決して安くはないですが、コペンハーゲンへ行って参加する渡航費と、充実した内容を考えると妥当な価格だと思っています。
講演者は Dear Data <http://www.dear-data.com/> の可愛らしいビジュアライゼーションで注目された Information Designer の Stefanie Posavec さん、オンラインホワイトボード Miro のデザイン部門のトップ Vlad Zely さん、Shopify の UXディレクター Yesenia Perez-Cruz さんほか、コペンハーゲン出身のアーティストによるライブ演奏も予定されています。
そんな期待の Design Matters 21、2018年より Remote Sprinters というリモートデザインスプリントのコミュニティを運営している Ross Chapman 氏のオンラインワークショップが決まりました。リモートデザインスプリントの話題だけでなくオンラインコミュニケーションに関して、どのような工夫や実践が聞けるのか、今から楽しみです。
◆デザインスプリントに役立つ書籍紹介(続き)
●Enterprise Design Sprints
https://www.designbetter.co/enterprise-design-sprints
プロトタイピングツール InVisionによる無料の小冊子。エンタープライズ、いわゆる業務向けのツールや、B2B(Business to Business:企業対企業) 向けのツール開発におけるデザインスプリントについて手順が紹介されています。広く多くの人に使われる一般向けのアプリやサービスと異なり、業務ツールは多少使いづらくても使わざるを得ない場合もありえますが、より使いやすく効率が良いものを作るにはどうしたら良いのか?
本書ではプロダクト開発のどのタイミングでデザインスプリントを取り入れるのが良いのか。アジャイル開発の工程のどのタイミングでどういったデザインスプリントをすると効果が高いのかという現場での具体的な工夫が紹介されています。
●The Ultimate Guide to Remote Design Sprints https://ajsmart.com/remotedesignsprints
デザインスプリントのオンライン講座で知られる A&J Smart による無料の小冊子。リモートデザインスプリントのノウハウが満載です。2020年4月に出たもので、現在はさらに進化した工夫やツールの進化もありますが、普遍的なノウハウも含め参考になる現場での工夫が数多く紹介されています。
オンボーディングと呼ばれる最初の説明や練習について、リモートデザインスプリントに適したオンラインツールの紹介、オンラインならではのファシリテーション(進行)について、シンプルで軽快な紹介に勇気付けられます。
●The Lean Product Playbook: How to Innovate with Minimum Viable Products and Rapid Customer Feedback (洋書)
https://amzn.to/2WrPiK9
製品開発やサービス開発のプロセスの中で、どういったタイミングでデザインスプリント的なプロセスを取り入れていくかについて解説されている本です。すでに開発体制や組織構造が決まっている中で、いかに発散と収束のフェーズを取り入れるかという工夫が参考になります。
●Make Time 時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」https://amzn.to/3sVJKmI
Make Time はデザインスプリントに直接関係ある本というわけではないのですが、デザインスプリントの時間制限の工夫をさらに生かすことのできるノウハウ本です。デザインスプリント本の Jake Knapp 氏と John Zeratsky 氏による書き下ろしで、時間を効率的に使う方法、無駄な時間をそぎ落とす方法、単なるToDoリストではない心理的なクセに配慮した計画リストの作り方など、簡単にすぐに実践できて効果が高い納得のノウハウが87個紹介されています。
その中でも特に気に入っているのは集中するための「レーザー」という手法です。時間を効率的に使うさまざまな工夫をしますが、必ずしも計画通りに1日が過ごせなかったとしても自分を責めないこと。何か一つでも、大事な仕事がこなせたのであれば、その日は有意義に過ごせた!と考えると良いとアドバイスが記載されており、そう思うと、予定していたとおりの1日が過ごせなかったとしても、そう捨てたもんじゃないよなと、気楽になることができました。
ちなみに、本書は特定メンバーに執筆中の原稿が公開され、多くの人たちがレビューに参加しながら作られた本です。自分も少しだけレビューに参加しました。書籍の最後に名前が入っているのが、ささやかな自慢です。
◆Relay 2021 で編み出された 11の新手法(続き)
Design Sprint Newsletter #009 で紹介した手法に続き、Relay 2021のサイト (https://designsprintkit.withgoogle.com/relay2021/) より抄訳で手法を紹介します。
●未来のコラボレーションのためのプラットフォーム (A Platform for the Future of Collaboration)
世界的な課題に取り組むために、問題を抱える人と問題を解決する人をつなぐことはできないだろうか?
地球と人類の課題が複雑になり、その影響が世界全体に及ぶようになった今、デザインスプリントの実践者、専門家、未来学者の各国に散らばるコミュニティを結びつけ、世界のどこからでも一緒に課題に取り組める機会が得られるようになりました。
ここで議論されたのはデザインスプリントらしく HMW (How Might We? どうしたらもっと〜できる?)でした。
共通の目的意識をはっきりとさせ、似たコミュニティを引き寄せるには?
問題解決のためのスキルや能力、効果を測るにはどうしたら?
多様性やインクルージョン(包括性)で評価し、信頼と正しい行動をするには?
異なる視点から、平等を提供するには?
地域性の高い問題から始めて、それを国際的に広げていくには?
問題を抱えている人と、その問題を解くための支援ができる人とをつなぐためのマインドセット、スキルセット、ツールセットを整えます。そうすることで、様々な制約を超えてより大きな課題に取り組むことができると考えられています。
Actionable Future Toolkit(組織、サービス、製品の未来を構築、調整するための実践的なツールキット)https://futures.nordkapp.fi/
Google のスペキュラティブデザイン(問いのデザイン)チームが提唱する次世代に向けたリハーサル方法 https://design.google/library/rehearse-the-future/
◆次回は、リモートデザインスプリントに欠かせないオンラインツールの細かな使いこなし術を紹介する予定です。
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