万有引力で知られるニュートンが科学者ロバート・フックに宛てた手紙に
“If I have seen further it is by standing on yᵉ shoulders of Giants. ”
私が彼方を見渡せたのだとしたら、それは巨人たちの肩の上に乗っていたからです
という言葉が引用されています。もともとはフランスの哲学者Bernard de Chartresの言葉です。これは、先人が積み重ねた発見に基づいてさらに新しい発見をすることを示しています。研究や開発、デザインの現場でもこの「巨人の肩の上に立つ」ことが実感される場面が数多くあることでしょう。
デザインスプリントも、いきなりゼロから生まれたものではなく、デザイン思考や様々な種類のワークショップ、アジャイルやリーン、UXリサーチの手法など数々の巨人の上に立つことで、さらに洗礼された実用的な手法として広がっています。その一方、経験豊富なデザインスプリントのファシリテーター(進行役)や、多方面のスキルを身につけたUXデザイナーなど、教えを請う「巨人」が周りに居ない時はどうすれば良いのでしょうか?その答えの一つは「書籍」にあります。書籍から得られる知見が、あなたを肩に載せてくれる「巨人」になってくれるかもしれません。
デザインスプリントに関する書籍として、まずは無くてはならない次の二冊。「SPRINT最速仕事術」の方は、タイトルがタイトルだけに書店のビジネス書のコーナーにあるかもしれません。デザインスプリントの思想や、背景も含めて詳しく紹介されており、最初の一冊目として最適な本です。とても解りやすく書かれていますが、この本を読んだだけでデザインスプリントを行うのは少し大変かもしれません。その助けとなるのがオライリージャパンから出ている「デザインスプリント」で、実際の細かい手順や工夫などが紹介されており、この2冊は無くてはならない本である一方、いろいろとデザインスプリントを繰り返していくと、この2冊だけでは不十分になってくるとも考えています。
SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法
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デザインスプリント ―プロダクトを成功に導く短期集中実践ガイド
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●Google流 ダイバーシティ&インクルージョン:インクルーシブな製品開発のための方法と実践
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2021年9月22日発売予定、現在予約受付中の翻訳書です。原書は “Building for Everyone” (すべて人のために、すべての人と共につくる)です。Googleの中でインクルージョンチームを立ち上げた Annie Jean-Baptiste さんによる著書で、適切な人たちを集め、適切な視点で実施するインクルーシブなデザインスプリントの実施について第8章で取り上げられています。Googleでさえも、いろいろ苦労しているんだな〜という現場の工夫や交渉術が読み取れる本です。
●サービス・スタートアップ イノベーションを加速するサービスデザインのアプローチ
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タイトルから中身を想像するのは難しいのですが、サービスデザインに関する良書です。既存の手法を否定的にとらえつつ実践的な手法を丁寧な手順で紹介しています。
●Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール
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著者ニール・イヤール氏によって提唱されたフックモデルについて、事例を含め、詳しく紹介された本です。ゲームアプリやコンシューマー(一般消費者)向けのサービスを考えるデザインスプリントの際には、とても参考になる切り口がいくつも紹介されています。
フックモデルは、トリガー(外部からのきっかけ、自分の内側からのきっかけ)、アクション(行動、操作や作業)、リワード(量やタイミングが不安定な報酬)、インベストメント(手間をかけさせる)といった4つの要素によって人がサービスやアプリに「ハマる」仕掛けです。いま世の中で流行っているサービスやアプリ、特にゲームのほとんどは、このフックモデルがうまく実現されているものばかりです。
●ゲームストーミング 会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム
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デザインスプリント本でも言及されている手法が掲載されており、デザインスプリントそのものを楽しく、かつ効果的に進めるための手法が数多く紹介されています。この本で紹介されている「100ドルテスト」は、複数の施策案があった時の優先順位づけにとても向いています。100ドルという予算が手元にあった時に、それぞれの案にどれだけ支払っても良いのか100ドルの予算をどう割り振るかで、優先順位を見出すのです。対象は複数の案でも、複数の機能でも良いですが、お金を支払うという現実的な状況を想像することで「全部の案が大事!」みたいなことにならず、適切な優先順位がつけられるオススメの手法です。
●小さく賭けろ!世界を変えた人と組織の成功の秘密
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画期的なアイデアが小さな発見からどのように生まれてくるかが紹介された本です。デザインスプリントの発散と決定の工程で、いったい何が本当に大切なのか、本質を捉えることができるようになるでしょう。また本書によってデザインスプリントを何回も繰り返す価値が再認識できるハズです。
●SHIFT:イノベーションの作法 (Kindleのみ)
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Creative Visual Thinker、一般的にはビジネスデザイナーと呼ばれている濱口秀司氏の、ハーバードビジネスレビューの人気連載を一冊のKindle本にまとめたもの。説得力のある独特の視点と、納得の切り口から課題を解きほぐしていく手法が数々紹介されており、ビジネス的な局面で難しい課題のデザインスプリントをせざるを得ない時、未知の課題や、何も無いところからイノベーションを生み出さなければいけ状況の時など、本書に書かれている内容が大いにヒントになるハズです。
●Unlearn: Let Go of Past Success to Achieve Extraordinary Results(未翻訳)
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Unlearn は「学ばない」ということではなく「新しく学び直す」といった方が良いかもしれません。過去に学んだ手法はすでに時代遅れになっているかもしれないと考え、新しい状況、新しいやり方を自分自身で見つけ、作り出すことを学んでゆくのです。様々なことに慣れてしまうと、過去にうまくいった方法にこだわりがちですが、デザインスプリントは決められた手法を利用しつつも毎回新しい工夫が必要になってきます。そういった場合、いままで会得してきたことを一度手放して、再構築することが求められているのかもしれないのです。
◆Relay 2021 で編み出された 11の新手法(続き)
Design Sprint Newsletter #007 で紹介した手法に続き、Relay 2021のサイト (https://designsprintkit.withgoogle.com/relay2021/) より抄訳で手法を紹介します。
●私が考える/私たちで考える 加速するコラボレーション (Me Think/We Think Accelerating Collaboration)
分散しているときの時や場所を超えたコラボレーションとは何か?
リモート環境でのデザインスプリントについて、同期と非同期の状況をスムーズに統合する方法を、少し深く掘り下げてみました。現在の状況を考えると、従来型の手法やツールをリモート環境に当てはめるだけでは十分ではないと考えています。そこで、このプロジェクトでは、チーム全体でそれぞれの準備、成果物、ファシリテーションをリモート環境に適応させ、この新しい働き方で最高のコラボレーション体験を得られるような手順を考えました。集中力を維持し、お互いの繋がりを感じつつ、良質の成果を導き出すための切り口としては次のとおり。
役割の変化とニーズの高まりを把握し、必要な準備やポイントを把握する
遠隔地同士や非同期でデザインスプリントする際に起きる摩擦やトラブルを軽減
オンラインにつながっていない非同期の時間をうまく活用する方法
非同期の作業時間を大切にし、高品質なアイデア、アウトプットを出す工夫
非同期で行なった作業を共有し、そこからオンラインで発展させていく工夫
図:非同期コラボレーションの段階を示したもの
ここから導き出された手法は、
○最初のアイデアを数多く出す段階では、非同期の個人作業
○アイデアを持ち寄って共有し、発展させるのは皆が集まる同期の作業
○どの案が良いのかを考えて投票するのは、影響を受けないよう非同期の個人作業
といった具合に同期に向いた作業、非同期に向いた作業をうまく切り分けることで、スムーズな進行と良質なアウトプットを導き出しています。
◆次回は、今回紹介しきれなかった書籍紹介の続きと、リモートデザインスプリントに欠かせないオンラインツールの使いこなし術を紹介する予定です。
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