【デザインスプリント】Design Sprint Newsletter #222
秋には調和、空には光沢 / There is a harmony in autumn, and a luster in its sky
◆2025年になっても会議がうまくいかない理由
会議はなぜ毎回カオスになるのか? そしてそれを受け入れるということ
久々に公開されたAJ&Smartの動画より;
会議は、こうあるべきだと私たちは信じています。「目標を設定し、皆で意見を出し合い、やがて合意に至り、次にやるべき行動が決まる」——たったそれだけのはず。しかし、現実の会議がそんな風に進むことは、驚くほど稀です。
理由は簡単。「人間」が関わっているからです。
たとえば、誰かが機嫌が悪かったり、参加者同士に過去のトラブルがあったり、直前に読んだニュースに感情をかき乱されていたり。そんな状態で始まった会議が、スムーズに進むはずがありません。
多くのファシリテーション理論 ——デザイン思考や参加型意思決定のダブルダイヤモンドモデル—— では、「発散と収束」という理想的な流れが紹介されています。でも、現場ではそんな綺麗ごと通りにはいかない。理論が甘すぎるんです。
私自身の体験を例に出すなら、友人たちとベルリン郊外にキャビンを借りようとしたとき。メッセンジャーアプリWhatsAppのグループを作って、「いつ行く?どこに泊まる?」たった2つの質問に答えればいいだけなのに、半年経っても結論が出ません。これが、私たちの「協働」の現実です。
会社の会議でも同じです。例えば「社員旅行について話す会議」があったとします。冒頭はそれっぽく始まりますが、突然誰かが「ところでノートPCのアップグレードってどうなってるんだっけ?」と話を変え、2人がSlackで別トピックを始め、1人は完全に集中力を失っている……。
そして気づけば、会議の時間は残り5分。「とりあえず次回また集まりましょう」と新たな会議が設定され、泥沼が繰り返される。なぜか皆、「今回はうまくいくはずだ」と信じ続けているから、毎回落胆するのです。20年間同じ会社で働いていても、20年間ずっと会議に失望しているという不思議。
でも、これが人間です。こんな混沌の中でも、飛行機も、原子力発電所も、宇宙船すらも作ってしまうんだから、すごいじゃないですか。たしかに痛みを伴うけれど、最終的にはものごとは進むのです。
ファシリテーターの本当の役割は、この「人間の混沌」を否定することではなく、受け入れ、共に進むことです。
何が起きるか分からない状況に放り込まれても、それを混乱と捉えるのではなく、「自分の出番が来た」と捉えられるようになる。それこそが「エマージェント・ファシリテーター(即興的に場を導く者)」の資質なのです。
特に重要なのは、誰もが声を上げやすい環境を作ること。普段は発言をためらっている人にも、意見を言ってもらえるような場をつくる。混沌の中から、情報を引き出し、全員が納得できる決定に導く。しかも、次の会議を生まなくて済むように。
そしてここが重要なのですが、私たちが教えるファシリテーションスキルは、「テンプレート通りのワークショップを回す技術」ではありません。そんなものはAIがすぐに代替できます。むしろ、AIでは対応できない「人間の予測不能さ」「空気の読解」「衝突の仲裁」「無言の気配を感じ取ること」そのすべてが、ファシリテーターとしての価値になります。
だからこそ、混乱したチームに飛び込んで、彼らが「次もこの人にいてほしい」と思ってくれるような場をつくる。それがファシリテーターとしてのキャリアを確実に強くします。何より、自分の存在意義を感じられるはずです。
混沌の中にこそ、ファシリテーターの本領が発揮されます。
理想を捨て、現実を見る。
そこから始まるのが、本当の「共創」なのです。
◆エマージェントファシリテーター即興的に場を導く者とは
参加者の目的・期待を探る
場に入ってすぐ、参加者ひとりひとりに「なぜ来たか」「この場に期待することは何か」をシェアしてもらうなど。これにより場の方向性を外発的にではなく内発的に引き出す。基本ルールづくり
場を設計する前段で、どんな態度・振る舞いが許されるか、沈黙やズレへの扱いはどうするか、ファシリテーターの役割などを合意しておく。スタートへのゆるやかな導き
いきなり議論/課題に飛び込むのではなく、軽いウォーミングアップ(チェックイン、ペア共有、軽い問い掛けなど)を入れることで場をほぐす。
過度な方向付けを避ける
議論を特定の枠に誘導しすぎないように。あくまで場の動きを見ながら、介入は最小限に。適切なタイミングで質問を差し込む
オープンな問い、誘導し過ぎない問い、質問によって思考を深めたり視点を変えたりする。収束を急ぎすぎない
あまり早く答えを求めず、問い/違和感を十分に共鳴させる時間を確保する。話題を拾う/場の境界を活かす
グループの気にしていない事柄や寄り道、書き出した事柄、ふとしたネタを使って、新しい気付きや発散を引き出す。気づきの言語化支援
「今、それはどんな感覚ですか?」「その言葉の裏には何がありますか?」など、言葉化を促す手法も使われることがある(発言者の言葉を乱さず、評価を入れずに問いを返す)沈黙・ズレ・対立を扱う
不快な沈黙や参加者間のズレ・摩擦を避けず、敢えて扱う。場の圧力・すきまを扱うことで場が動くこともある。途中で構造を変える勇気
場が停滞する、偏る、疲れる、飽きが出ると感じたら、構造転換(グループ替え、問い替え、短い休憩など)を入れる。時間操作(時間感覚をマジシャン的に使う)
時間を拡げたり(深める時間をとる)、縮めたり(問いを限定的にする)など、時間の余白を使って揺さぶりをつくる。
集約/収束へのゆさぶりを意図的に設ける
これまで出てきたものを組み替え、マッピング、ストーリーテリング、シンスセシス(統合技法)などを使って全体像を浮かび上がらせる。振り返り・メタ視点をもたらす
場の流れ/プロセス自体を振り返る問い(例:「今日、この問いはどこから来てどこへ行ったか?」)を入れることで学びを深める。次のステップに意味をつなげる
発散的な問いや創発的な産物を、参加者それぞれ/チームとしてどう活かすかを問う。場を終えるときに“創発→実践可能性”への架け橋をつくる。
全体としてのコツ
制約(枠)を先につくっておく
手法を自在に使えるようにするためには、場の“枠”をゆるやかに決めておく(時間、ルール、発言形式など)。この“制約”がないと、創発性が露出しすぎて漂流しやすい。交互作用:拡散 ↔ 収束
発散ばかりだと焦点が定まらないので、発散後に必ず「集約」「統合」のステップをはさむ。問いの質を大事にする
いい問いは場を大きく揺さぶる。手法の中で問いカードを差し込んだり、場を変えるような問いを使う。タイミングの感覚を研ぐ
いつ介入するか、いつ構造を変えるか、いつ休むか等を“場の呼吸”で感じ取る訓練が不可欠。裏方観察/ファシリテーター交替
もし可能なら、主ファシリテーターが進めながら、もう一人が場を観察して「ズレ・過熱・停滞」を見て合図できる体制を持つと安心。軽い予備プランを持つ
完全なアジェンダにはしないが、「もし場が動かなかったら使える代替問い」「構造転換パターン(ペア転換、小グループ化、全体対話)」をいくつかストックしておく。これは準備段階で考えておくと良い。身体性・沈黙を恐れない
沈黙・ずれ・停滞をむしろ資源として捉え、問いや言語化を無理にせず待つ時間を尊重する。可視化を使いこなす
付箋紙を壁に貼り、マッピング、グラフィック・ファシリテーションなど、見える形で素材を出すことは議論を豊かにする。
デザインスプリントではもちろんなんですが、自宅でメモする時にもポストイットをよく使います。ボトルガムに入っている小さな小さな付箋紙らしき紙にもメモすることがあります。笑
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