◆最も重要なファシリテーションテクニック
ファシリテーションの核心は「技術」よりも「心の状態」にある
AJ&Smart ジョナサン・コートニーが語る「プライミング」の力
カリフォルニア州パロアルトで行われた「フルスタック・ファシリテーター・トレーニング」で、AJ&Smart のジョナサン・コートニーは、普段の講義ではあまり語らない「精神的な側面」について踏み込んだ話をした。それは、単なる「良いファシリテーター」と「偉大なファシリテーター」を分ける要素。つまり、セッションに臨む前に自らをどのような心の状態に整えるかという問いだった。
彼のメンターであるブレイク(牧師であり成功した実業家)から学んだ言葉は「スクリプト(台本)よりもステート(心身の状態)が大事」というもの。内容を完璧に準備することよりも、ファシリテーター自身が「開かれた状態」「流れに乗った状態」で場に立てるかどうかが、成果を左右するという考えだ。
ジョナサン自身も朝のジャーナリングや、参加者に対して本当に愛情を持つという意識の転換によって、その状態に近づけると語る。当初は「愛する」という表現に抵抗を覚えたが、参加者の人生背景や悩みを思い浮かべることで、ただ知識を押し込むのではなく「安心してつながれる時間と空間」を提供したいという気持ちが自然に生まれてきたという。
さらに彼は、エリザベス・ギルバートの『Big Magic:夢中になることからはじめよう。』を引き合いに出し、アイデアやインスピレーションは「空中を漂っており、人はそれを受信するアンテナのような存在」だと紹介する。携帯に触れすぎるとその感度が鈍るが、シャワーや音楽プレイリストなどで「ニュートラルな状態」に戻ると、自然にひらめきが訪れる。そんな比喩である。
研修参加者からも多様な実践が共有された。
共感を呼び起こす動画を見てから登壇する
会場を歩き、参加者の視点を想像する
自分を支える「一つの言葉」を決めて集中する
姿勢や呼吸で身体から心を整える(Amy Cuddy の TED Talk に基づく方法)
※エイミー・カディ「ボディランゲージが人を作る」
ジョナサンは特に「参加者をウォームアップする前に、自分自身をプライム(準備)すること」の重要性を強調した。ファシリテーターが防御的ではなく、信頼感と開放感を持って場に臨むことで、自然と参加者も安心し、セッション全体のエネルギーが変わるからだ。
ただし、経営層やリーダー層が集まる高ストレスな場面では、過度に脆弱さを求める演習は逆効果になり得る。その場合は、自分自身の状態を整え、参加者に「任せられる存在」だと感じてもらうことが最優先になる。
結論として、ジョナサンはこう強調する。ファシリテーションは技術だけでは完結しない。
方法論やツールに加え、心の準備、共感、そして場を開く姿勢が、セッションの成否を決定づける。それが彼の実感であり、ファシリテーターにとっての最大の「差別化要素」なのです。
◆イノベーションのペースを設定する(製品とビジネス)
2025年、イノベーションは「選択肢」ではなく「必須条件」
2025年のビジネス環境は、変化の速さが過去とは比べものにならないほど加速している。テクノロジーの進化、社会情勢の揺らぎ、消費者ニーズの変化。こうした要素が複雑に絡み合い、企業は常に適応を迫られている。そんな時代において「イノベーション・サイクル」を持たない企業は、ただちに競争力を失い、気づけば市場から取り残されるリスクが高い。
多くの企業は「現状で十分だ」「オペレーションが回っているから問題ない」と考えがちだ。しかし、その安心感こそが最大の落とし穴である。市場は安定しているように見えても、水面下では常に変化が進行しており、既存の強みが一夜にして陳腐化する可能性がある。だからこそ、イノベーションを「議題に上げるだけで満足する」のではなく、日常の経営サイクルに組み込むことが不可欠だ。
ありがちな直線型プロセスの「盲点」
従来の企業がたどるイノベーションの流れは単純だ。
発案(Initiation) – 新しい機能や市場参入のアイデアが生まれる
軽い計画(Planning) – 大まかな準備を行う
調達(Procurement) – ベンダーや外部パートナーへ声をかける
実行(Execution) – 開発や制作を進め、優先順位をつけて成果を出す
リリース(Release) – 限られた機能やサービスを公開する
保守(Maintenance) – 運用やアップデートを繰り返す
この流れは一見合理的に見えるが、最大の問題は「検証の不在」にある。多くの企業が「発案」からすぐに「調達」へと飛びつき、実行に移してしまう。しかし要件が不明確なままでは、外部パートナーに丸投げする形となり、結果的に「期待と成果のギャップ」が生まれる。これは、コストの浪費だけでなく、社内外の信頼関係を損ねる要因にもなる。
デザイン思考で「検証」を組み込む
では、どうすればよいのか。答えはデザイン思考やデザインスプリントの導入にある。発案から調達へ直行するのではなく、その前に「戦略的検証プロセス」を挟み込むのだ。
検証プロセスは次の6段階で構成される。
理解(Understand):事業目標や期待値を関係者で揃える
定義(Define):課題を明確化し、共有言語に落とし込む
発想(Ideate):多様な解決策を生み出す
決定(Decide):優先順位をつけ、方向性を選ぶ
試作(Prototype):簡易なモデルを素早く作る
検証(Validate):実際のユーザーに当てて反応を確かめる
この流れを踏むことで、調達時点には「明確な要件」と「視覚的に示せる成果物」が揃い、外部パートナーは安心して作業を始められる。調達プロセスが格段にスムーズになり、予算も効率的に活用される。そして何より、意思決定が「仮説」ではなく「実証」に基づくため、リスクが大幅に軽減されるのだ。
「持続可能なイノベーション」の条件
もちろん、検証が済んだからといってイノベーションが自動的に続くわけではない。重要なのは、このサイクルを一度きりのイベントではなく継続的な仕組みとして根付かせることだ。そのために不可欠なのがチェンジマネジメントである。
変化に対する抵抗はどの組織にも存在する。だからこそ、社内外のファシリテーターやチェンジリーダーが中心となり、イノベーション・サイクルを管理し続けることが求められる。小さな改善を積み重ね、文化として定着させることで、組織は「変化に強い体質」へと進化する。
不確実性を「武器」に変える
2025年以降の企業にとって、イノベーションは「プロジェクト」ではなく「呼吸のような営み」である。
発案 → 検証 → 調達 → 実行 → 保守 → 再発案…という循環を設計し、その中にデザイン思考とチェンジマネジメントを組み込むこと。それこそが、不確実性の時代を乗り越える唯一の道である。
変化の速さを恐れるのではなく、仕組みとして取り込み武器にする。その覚悟を持った企業だけが、未来の市場で存在感を保ち続けるだろう。
◆CEOは実際に何に注力すべきなのか?
CEOの本当の仕事とは「プロモーター」であること
AJ&Smartのジョナサン・コートニーが配信するポッドキャスト「The Unscheduled CEO」。今回のテーマは、AJ&Smartが開催した「サマーキャンプ」イベントから得られた気づきです。35人の参加者と3日間過ごし、マーケティングやファネルの話題を中心に盛り上がりました。そこでジョナサンが提示したシンプルな問いかけが、参加者に大きなインパクトを与えました。
「CEOの一番の仕事は何か?──それはプロモーターであること」
プロモーターとは、会社の存在を外に向けて広め、人々を引き込み、ビジョンを売り、期待感を生み出す役割です。プロダクトに没頭したり、社内管理に終始したりすることがCEOの本質ではありません。アップルのスティーブ・ジョブズ、テスラのイーロン・マスク、OpenAIのサム・アルトマン。彼らは皆、製品開発の裏側にいながら、同時に世界最高の「プロモーター」でした。
もし「自分は人前に立つのが苦手でやりたくない」と思う起業家がいるなら、解決策は一つ。共同創業者を探すべきだとジョナサンは断言します。この役割は社員に委ねることはできないからです。
プロモーションの形は人それぞれ。SNS投稿、ポッドキャスト、本の執筆、カンファレンス登壇、ネットワーキング。方法は何でも構いません。大切なのは「時間の大部分を、自らを可視化し、声を届けること」に充てることです。「SNSをやる時間がない」と言う経営者は、実は「本来の仕事をやっていない」のだとジョナサンは強調します。
AJ&Smartが最も成長した時期を振り返ると、戦略は実に単純でした。「週に一度のポッドキャスト」と「四半期に数回のリアルイベント」。この繰り返しが最も大きな成果を生んでいたのです。一方、複雑な仕組みやコミュニティ作りに走った時期は、ストレスが増えただけで、売上は伸びませんでした。結局のところ、シンプルに戻るのが一番効果的でした。
実際、今回のサマーキャンプ自体が直接的な収益を生み、さらに数十万ドル規模の新規プロジェクトのきっかけとなっています。過去には、何気なく開催した小さな無料イベントが、Googleをクライアントとして引き寄せたこともありました。
これこそがジョナサンの言う「プロモーター成長方程式」です。自分にとって自然で得意な活動。彼の場合は「話すこと」「人前に立つこと」を軸に据える。それが最も高いレバレッジを生み出し、結果的に事業を拡大させたのです。
ジョナサンはこれをゲーム『エルデンリング』になぞらえます。あのゲームには進むべきルートを示す矢印や地図がなく、行動することで道が開ける。ビジネスも同じで、完璧な戦略を練るよりも、まず一歩を踏み出すことが新しい展開を生むのです。
そして彼は改めて宣言します。「これから少なくとも6週間、毎週火曜日にポッドキャストを配信する」と。場合によってはライブ配信も行い、視聴者との直接のやりとりを取り入れるつもりです。
経営者にとって最大の武器は、製品でも仕組みでもなく、自らがプロモーターとして動くこと。その行動こそが、会社を次のステージへ押し上げる力になるとのこと。
◆効果的なUXワークショップの秘訣
The secret to effective UX workshops
https://medium.com/@uxsurvivalguide/the-secret-to-effective-ux-workshops-d10deae06d44
課題が定まらないとき
Problem Framing Workshop
問題文を個別に書き出し、ユーザーの痛点を整理し、インパクトで優先順位をつける。
ポイント:必ず個人で考えてから共有し、グループシンクを避ける。アイデアが多すぎて混乱するとき
Prioritization Workshop
Impact/Effortマトリクスやスコアリングで整理し、「Now/Next/Later」に振り分ける。
ポイント:評価基準を事前に合意しないと混乱する。ユーザー理解が不足しているとき
Empathy Mapping Workshop
Say/Think/Feel/Doでマップを作成し、前提と事実を区別する。
ポイント:データがなければ必ず「仮定」と明記する。新しいアイデアが急ぎで必要なとき
Rapid Ideation Workshop
Crazy 8’s、Lightning Demos、サイレントブレインストーミング。
ポイント:沈黙の時間を意図的に長く取り、先入観を避ける。未来の方向性に合意が必要なとき
Future Visioning Workshop
未来の見出しを書く、理想のユーザージャーニーを描く、バックキャスティングする。
ポイント:今日の制約に縛られず「未知の未来」として語る。
1. 明確な期待値を設定する
ワークショップは必ず「始まり(背景説明)」「中盤(アクティビティ)」「終わり(意思決定や成果物)」の流れを持つこと。
事前資料を全員が読んでいると期待しないこと。特に経営層は読んでいない前提で、冒頭に必要な文脈と情報を提供する。
シンプルなアジェンダスライドを最初に提示し、時間配分や休憩を明示。いつでも参照できるように共有しておく。
60〜90分ごとに休憩を設定し、タイミングを事前に知らせる。アクティビティ中の離席を減らす効果がある。
各アクティビティは丁寧に紹介し、質問を受け付ける時間もアジェンダに組み込む。
実例を必ず用意する。参加者の理解を助け、期待される成果物のレベルも明確にできる。
最後は必ず「次のステップ」で締め、本日の成果の活用方法、次のアップデート時期、今後の流れを明確にする。
2. 徹底したタイムボックス
すべてのアクティビティに制限時間を設け、必ず守る。議論が長引くと流れが止まる。
即興で進めるのは厳禁。秒単位で計画しなければ失敗する。
アジェンダには必ずバッファを入れる。例:3時間の予定なら実際の計画は2時間45分。すべては想定より長引く。
各アクティビティ前に時間を宣言し、残り1分の合図をする。
脱線した話題は「アイデアの駐車場」に記録し、後で扱うようにする。
3. 適切な人を招待する
誰を呼ぶかを厳しく精査する。「全員を呼ぶべき」というプレッシャーは成果を損なう。
戦略的に適切な人を適切なタイミングで呼ぶ。場合によっては分割開催を選択する。
既存のステークホルダーを頼りに、必要な専門家を紹介してもらう。大規模組織では特に重要。
部門や職能の参加が必要な場合は、担当者の代理参加を認める。これにより日程調整の負担が軽減される。
4. おまけTips
アイスブレイクは内向的な人にも優しい方法を選ぶ。「二つの真実と一つの嘘」や個人情報を暴露する形式は避ける。
状況に応じて柔軟に進行を調整する。参加者が疲れていると感じたら、あえて短縮することも成果につながる。
複数のアクティビティを組み合わせて成果を引き出す。既存フォーマットに縛られる必要はない。
次の土日、9月13日、14日は、Design Matters '25 Tokyo に参加します。チケットはまだギリギリ駆け込み販売中。オンラインチケットもありますが、現地会場参加が一番有益で楽しいハズ!参加される方がいらっしゃればぜひお声がけください!チェキで写真撮ってあげます! https://designmatters.io/tokyo/ja
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