【デザインスプリント】Design Sprint Newsletter #016
丸うならねば思う事は遂げられまじ / If I myself can’t be round, I will never achieve anything I’d like to do.
◆ドット投票のちょっとした工夫
デザインスプリントの様々な場面でドット投票 (Dot Voting) と呼ばれる丸いシールや丸いマークを使った投票を行います。ドット投票自体の歴史はデザインスプリントよりも古く、2000年以前よりワークショップのファシリテーター(進行役)の間で使われるようになり、一般にも街頭インタビューなどで使われています。2010年に出版された書籍「Gamestorming」には「素早く優先順位をつける方法」として紹介されています。
大抵のドット投票は1票ではなく、一人当たり数票(3〜7票程度)を持ち票として、自身が投票したい案に自由に投票します。例えば3票の持ち票の時、気に入った1案に3票全てを投じても良いというルールにするのです。そうすると個々人の強い思いや考えが投票に反映するようになります。さらに個々人の思いを可視化したい時は色違いの票を用意します。
例えば赤丸1枚(これは思い入れのあるイチオシの案に投票する)と、黒丸3枚のシールを配って得票するなどです。票数の目安は、選択肢の25%程度です。例えば選択肢が20案ある場合は、1人につき票数が5票前後あると良いでしょう。この数はあくまで目安で、人数が多くて総票数が多くなる場合は、15%〜20%くらい。プロトタイプの機能ごと、Webページの要素ごとに投票する場合は、多め。デザインスプリントの最終工程で、数案に絞り込まなくてはいけない場合は、さらに少なめの票数でうまくコントロールしましょう。
対面で実施する際は、丸型のシールを用います。5〜9mm 程度の丸シールが適切で、これより小さいと細かすぎて指で貼るのが大変になります。またこれより大きいと、紙上の領域を多く覆ってしまうため、大きすぎるシールも考えものです。またシールはポストイットの色と被らないよう、黒や赤、青など、はっきりした色が良いでしょう。ポストイットと似た色のシールは、ぱっと見で数が把握できません。
銀色や薄紫など、遠目で見分けづらい色もあまり向きません。色覚特性によっては濃い赤と黒が見分けづらい人も居るため、できるだけコントラストの違う色を使うか、色とサイズの両方で区別できるのが良いでしょう。
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◆オンラインドット投票の工夫
リモートデザインスプリント、オンラインでトッド投票する場合にも、いろいろな工夫が必要です。いくつかのオンラインホワイトボードツールには投票の機能が搭載されているものがありますが、実はあまりデザインスプリントには向きません。どんなオンラインホワイトボードツールでもすぐに皆が理解して使える方法は「丸いマーク」をあらかじめ人数分、持ち票の分だけ、ホワイトボード上に用意しておき、投票の際には、つかんで移動するだけにしておくのです。
Miroのドット投票用テンプレートより
オンラインホワイトボードツール Miro で用意されているドット投票のテンプレートでは、付箋紙とは異なる色で、参加者の名前ごとに必要な数をあらかじめ用意してあります。色分けの必要がない場合も、名前ごとに用意しておくのが得策で、そうしないとオンライン上で同じ1つの丸マークを複数人で奪い合って、誰がどの丸を動かしているのかわからなくなる時があります。
Miro の標準搭載されている Vote 機能を用いると、得票数が数字で表現され、数字の数に応じて印が大きく表示されるため、集計が素早く完了するのが良い点です。けれども得票数が多い少ないといった感覚が薄れるため、準備は面倒ですが、やはり丸マークを用意するのがオススメです。
Miro の標準搭載されている Vote(投票)機能では、数字と丸の大きさで表現される
ドット投票の良いところは、同じ色のシールやマークで投票すると、誰がどの案に投票したのかがわかりにくく、弁の立つ人や声の大きい人、役職が高いだけで的確な判断ができない人の意見に引っ張られず、本当に良い案の得票数が多くなる点です。投票の際の注意点は順番に投票するのではなく、全員が同時に投票し始めることです。この「他人の影響を受けない」効果を強めるために「Zen Voting(無言投票)」という方法を併用する場合もあります。さらに誰がどの案に投票したのかを隠蔽したい時は手元の紙にこっそり書いたメモを集めて集計したり、オンラインフォームなどを用意し、匿名で実施するのが良いかもしれません。
逆にドット投票のデメリットとして誰がどこに投票したのかが解らないと後で困る場合は、参加メンバーごとに色わけするなどの工夫が良いでしょう。また投票に参加する人数が多すぎると、ぱっと見で判断できず、集計に時間がかかる場合もあります。ファシリテーター(進行役)は、投票中から数え始めていると良いかもしれません。
また黒シールで3票など、持ち票が少ない場合は大丈夫ですが、持ち票が7票などと多くなる場合は、自分が何票投票したのかわからなくなってしまう人がほとんどのため、投票の数の分だけシールを渡すと良いでしょう。ここで面倒だからといってシール50枚のシートをそのまま渡してはいけません。1列7個にハサミで切って渡すなども工夫も有効です。
ドット投票の結果ができるだけ一発で決まるよう、ここの持ち票は奇数個が向いています。チームの参加人数が偶数の場合は、誰か一人、役職が上の人や、決定権を持つ人に1票程度多めの票を持ってもらうのも良いでしょう。その人だけ票数が多いと特別感が出て権力欲が刺激されるかもしれませんが、その割には全体の得票には影響がなく、皆が考える本当に良い案に票が集まると考えられます。
巷のデザインスプリント解説に載っているドット投票の解説では「決定権を持つ人に最終決定を委ねる」といった記述もみかけます。けれども決定者がよほど的確な判断力を持つ人でない限り大抵はチームメンバー全員の投票によって決められた案が良い場合が多いと感じています。誰かが決定した案というよりも「皆で良いものを選んだ!」という感覚が大切なのです。もちろん決定権を持つ人が最終決定を下しても良いのですが、それはチームの皆がドット投票を行い、その結果を十分検討した上で最終決定を下してもらいましょう。
どうしても票がまとまらない場合は、いったん話し合ってから、得票数の多かったもの2〜3案で決戦投票すると良いでしょう。投票対象の案に賛否両論が多い場合は「反対票」のシールやマークを用意するのも良いでしょう。
Photo by Sung Jin Cho
◆ドット投票の心構え
投票についての心構えや工夫は次のとおりです。
●皆が気にいるものを投票するのではなく、あなたが良いと考えるものに投票する
●人気があるものに投票する必要はありません。得票数1票でも価値があるのです
●似たような案や選択肢で迷わないよう、あらかじめ案をまとめておく。または似たような案に得票されたものを投票後にまとめます
●投票対象の案は、レベル感を揃えると良いでしょう。イチゴと、8種類の野菜、全部で9つの案について投票するのではなく、果物と野菜とのどちらかに投票してもらうといった感じです
●投票の直前に、どういう観点、どういう目的で投票してほしいのかをはっきりと伝えておきます(ここである案に誘導するようなことがあってはいけません)
●デザインスプリントに加わっていないのに、投票にだけ参加する人(いわゆるオブザーバー的に参加する役職が上の人)が居る場合はタイミングや持ち票について十分配慮しましょう。
●全ての案を平等に見渡して投票するのではなく、自分の専門分野や、自分の経験から有望だと感じるものを投票してかまいません。
●利用者の立場で投票する場合と、作り手の立場、サービス提供者の立場で投票する場合を間違わないようにしましょう。はっきりしない時はその場で再確認しましょう
●自分が持つ無意識のバイアスを取り除くため、案の全てを読み、把握した上で投票すること。理解できていない案を無視しないこと。投票前に不明点があれば質問して納得しておくこと。
◆ドット投票が向かない時
また、ドット投票が向かない場合は次のような場合です。
●最終的にどの案にすれば良いのか、議論しきれていないとき、それぞれの案が説明しきれておらず、十分に検討できていない時
●第一印象で投票せざるを得ない場合
●投票者が偏っている時、または少なすぎる時
●ドット投票している時間も惜しい時
●すでにチームの総意が見えているのに、確認のためだけに投票してみるような場合
ドット投票が完了したら、ファシリテーター(進行役)は必ずどの案が良かったのか、皆の前で伝えるようにしましょう。一目瞭然だからといって話さずに進めるのは良くありません。また投票の後にさらに深い議論に入れるよう導くのも良いでしょう。さらに得票が得られなかったもの、得票数が少なかったものにも良い案が残っている場合もあるので、忘れないよう言及しておくと良い場合もあります。
◆さて、ドット投票のことを少しだけ書いて、他の話題も取り上げるつもりだったのに、なんとドット投票の話題だけで1回分のニュースレターの文字数が尽きてしまいました。ドット投票愛が過ぎたかもしれません。ドット投票は便利で簡単にでき、とても有効な方法なので、デザインスプリントに限らずいろんな場面で是非取り入れてください!
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