◆デザインスプリントビルダー:時間配分と進行はD.S.B. にお任せ!
デザインスプリントの準備は大変です。限られた時間で確実に成果が出せるよう、タイムテーブルを調整したり、参加者のスケジュール調整をしたり、皆へ当日の概要をお知らせする「遠足のしおり」的なものを配布したり、さらに進行用の資料や作業時間の配分計画を立てておく必要があります。
たいそうな報酬が頂ける、準備期間がたっぷり用意されているデザインスプリントであれば良いですが、いつもそんな良い状況ばかりとは限りません。
Design Sprint Builder は、デザインスプリントの目的や参加者の役割など、6問から8問、簡単な質問に回答していくと、デザインスプリントの計画シートが一瞬で完成する便利なツールです。
Design Sprint Builder (D.S.B. 01) https://www.designsprintbuilder.com/
このツールの一番便利な点は、1日間から5日間、それも半日か、全日か、デザインスプリントに使える時間を入力すると、デザインスプリントの工程を適切な時間に割り振ってくれるのです。さらに準備に必要なチェックリストや、対面で実施する場合とリモート(オンライン)で実施する場合と両方の条件でチェックリストを用意してくれます。通常4日間から5日間かかるデザインスプリントが難しい場合は、日数や1日あたりの時間を減らすことになりますが、その際は、宿題でカバーしたり、重要な作業だけに集中して実施したりします。
◆困った時の逃げ道。PARKING LOT(余計なアイデアの駐車場)
デザインスプリントが盛り上がってくると、どうしても本筋ではない余計なアイデアが出てきたり、本来の目的とは異なる部分に変にこだわったりする人がでてきます。大抵の場合は無難にスルーして本筋に戻せば良いのですが、たいていズレたアイデアを出す人に限って余計な時間や余計な説明に時間が取られてしまう傾向があります。
また本筋ではないアイデアが出た場合、そのデザインスプリントとしては範囲外であったとしても、アイデアそのものは良質で、また後に検討したいので忘れないようにしておきたい場合もあります。そういった「余計なアイデア」が発生した時に有効な手法が PARKING LOT と呼ばれる「アイデアの駐車場」です。
デザインスプリントに積極的に参加してもらえる前向きなメンバーばかりであれば心配はありませんが、時には上司から言われて嫌々デザインスプリントに参加している人や、世の中全てに不満を持っている発言が愚痴ばかりのような人が参加する場合もあります。
たいていの場合、なにか余計なアイデアが出てきたとしても「その点をしっかり考えた上で続けましょう」または「それはいいアイデアですね。でも今は深く掘り下げる時間がないので後からこのアイデアを検討しましょう」と言って進めると大抵は本筋に戻ってこられるのですが、その余計なアイデアにこだわる発案者のせいで、先に進まなくなる場合もでてきます。
対処法としては「○○の作業のところで、ぜひそのアイデアを反映してください」とか「後から詳しく説明していただく時間を取りましょう」などと、その余計なアイデアの発案者に何かしら作業をお願いすると、納得して引き下がる場合が多いでしょう。それでも引き下がらず、場を引っ掻き回してしまう人が居る場合は、部屋の外に呼び出して、一対一で「あなたの考えは尊重するけれど、目的のためには重要なことに集中し、チームの皆と一丸となって欲しい」とお願いすることになりますが、引き下がらない人はそれでも納得しないかもしれません。
こういったやっかいな人は、自分のアイデアが本当の意味で唯一無二の素晴らしいもので、今ここで全員がこのアイデアについて検討しなければいけない!と考えているわけではない場合がほとんどです。では実際のところはどうなのかというと、次のような背景が考えられます。
自分の存在感を示したいがためになにか気の利いたことを言っておきたい
いつもなら、会議で弁の立つ自分が主導権を握れているのに、どうやらデザインスプリントでは勝手が違うので戸惑っている
自分のスキル不足や知見不足で、意味のあるアイデアが出せないので、余計なアイデアを、さも大事な話題として取り上げようとする
こういった表層にはでてこない裏の意味がある場合がほとんどです。それらを読み取ることができれば適切な対処もできると思います。
●PARKING LOT(アイデアの駐車場)の作り方と使い方
ではやっとPARKING LOT(アイデアの駐車場)の作り方、使い方を説明するとしましょう。
手順1:デザインスプリントを行なっている部屋(リモートの場合は、オンラインホワイトボード)のどこかに、常に皆の目に入る場所に「PARKING LOT」または「アイデアの駐車場」 とだけ書いたホワイトボードやイーゼルパッドを用意しておきます。それほど大きなものでなくてかまいません。
手順2:デザインスプリントの最初の方で、なにか本筋ではないけれど大切なアイデア、今すぐ検討はできないけれど捨ててしまうのは惜しいアイデアが出た場合、このPARKING LOT(アイデアの駐車場)にアイデアを書いた付箋紙をいったん駐車させておきます!と伝えます。ここで「余計なアイデア」などと、人を逆なでする言葉を使ってはいけません。
手順3:デザインスプリントが進行していく中で、どの段階でもかまいません。進行役のファシリテーターや、参加メンバーがそれこそ「余計なアイデア」だと感じたものがあれば、PARKING LOT(アイデアの駐車場)に付箋紙を貼っておき、すぐに本筋に戻って続けるようにするのです。その付箋紙には必ず発案者の名前を書いておくようにしましょう。そうすれば「余計なアイデア」の発案者は自分が尊重されていると感じることができます。
手順4:PARKING LOT(アイデアの駐車場)は進行を妨げる「余計なアイデア」を排除するのはもちろん、雑音的な思いつきや、ちょっとした懸念事項を書き留めておくのにも役立ちます。信頼できるメンバー達なので、PARKING LOT(アイデアの駐車場)を用意するまでもないと考える場合でも、あった方が余計な考えを脳から排除できるので、大切な事柄に集中できるようになります。
手順5:たいていの場合PARKING LOT(アイデアの駐車場)に退避したアイデアひとつひとつを振り返る時間はないかもしれませんが、デザインスプリントの最後に「今回は時間がなくて詳細まで踏み込むことができませんでしたが PARKING LOT(アイデアの駐車場)にも素晴らしいアイデアがいくつも出揃いました。後日また活用していきましょう!」などと一言添えると皆が納得します。まあ、この頃には「余計なアイデア」を出した時の変な熱量は消えているので、話を蒸し返す人は居ないと思いますけれど。
●PARKING LOT の悪い点を回避する方法
ニールセンノーマングループによると、PARKING LOT には悪い点もあると紹介されています。例えば、渾身のアイデアを PARKING LOT に置かれてしまった人は残念な気分になることでしょう。また PARKING LOT を後日振り返る時間を取ることができず、そこに置かれたアイデアは朽ち果ててしまうことがほとんどです。
そこで PARKING LOT のその悪い点をカバーするために次のような工夫をしています。
最初に PARKING LOT の明確な目的とルールを紹介します。「余計なアイデア」が出てきてから、PARKING LOT の説明をしても遅いのです。
デザインスプリントの最初にわざわざ PARKING LOT 向けの作業を行います。今回の本筋でない事柄を洗い出し、掲示することで PARKING LOT の使い方と意味を知ることができます。
PARKING LOT に置かれる「余計なアイデア」が多くなってきたら、整理したり似通ったものをカテゴリごとにまとめる作業を皆の前で行うのです。そうすれば、どういったアイデアが今回のデザインスプリントでは「余計なアイデア」とされるのかという共通認識が生まれます。
PARKING LOT に置かれるアイデアに担当者と、後日どうするのか、予定まで書き入れてしまうのです。そうすれば朽ち果ててしまうアイデアにはなりません。「1ヶ月以内に再検討」という予定でも構わないので、予定をはっきりとさせるのです。
デザインスプリントの成果物に PARKING LOT に書かれた「余計なアイデア」も含めるのです。そのデザインスプリントの時には時間がなくて取り上げられなかったアイデアも、実は他の部署や他のプロジェクトに役立ったりするかもしれません。
※参照:Parking Lots in UX Meetings and Workshops https://www.nngroup.com/articles/parking-lots/
ここで紹介した PARKING LOT の手法は、なにもデザインスプリントだけではなく、ミーティングや議論の際にも役立つ手法です。余計な(でも大切な)話題は、駐車場にいったん停めておいて、余計な雑音を頭から排除し、本筋に集中するのです。
Photo by Raban Haaijk
● PARKING LOT の手間をかけられない場合
PARKING LOT はとても効果のある良い手法だと考えていますが、その時間や手間さえもかけることができない場合、手軽に用意できて時間も使わない方法に「レッドカード&イエローカード」があります。
デザインスプリントのテーブルごとに1枚のレッドカード、1枚のイエローカードを用意しておき、なにか不穏な発言や本筋から脱線したような場合に誰でもよいのでサッカーの試合のように「レッドカード:有無を言わせず、そのアイデアを退場させる」「イエローカード:一発退場ではないが、要注意のアイデア」といった感じで、デザインスプリントのルールとして扱うのです。
レッドカード、イエローカードはサッカーのルールに詳しく無い人でも知っていますし、細かい説明無しで使えることがほとんどです。実際のところカードが挙げられる場面はほとんどありませんが「本筋ではないアイデアを言うのは今度にしておこう」と皆が考え抑止力になるメリットがあります。懸念される、ルールで縛ることでアイデアが出なくなるのではないか?という心配がありますが、実際のところあまり影響はないので大丈夫でしょう。
可能であれば、実際にサッカーの審判が使う公式のレッドカード、イエローカードを用意すると気分があがります。数百円程度で手に入ります。
◆さて今回は、普通は誰も気にしないかもしれない事柄と、その対処方法である PARKING LOT を取り上げました。デザインスプリントの参加メンバーに恵まれ、使わなくて済むのが一番ですが、覚えておいて損は無いテクニックです。数多くデザインスプリントをしていくと、いつかかならず「やっかいな人」に遭遇するはずですから、その時には PARKING LOT のことを思い出してあげてください。
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