以前、デザインスプリントなどのワークショップのタイムテーブル、進行の計画を立てる際に便利なSessionLab < https://www.sessionlab.com/ > というツールを紹介しました。前から SessionLab には既視感があったのですが、最近、タスク管理ツール Trello < https://trello.com/ja > のデザインチームがデザインスプリント用のテンプレートを公開し「なんだ。これでいいじゃん!」と納得した次第です。余計なお世話ですがTrelloは共有設定を間違えると全世界に公開されてしまうので要注意です。
Trello Designチームが提供する Design Sprint テンプレート
https://trello.com/templates/design/design-sprint-6NanhvtF
Trelloは個々の記載事項がうまく整列するのと、順序を入れ替えて検討しやすいので、Trelloの特徴を生かした使い方だと再認識しました。もしかしたらデザインスプリントの中でもポストイットの代わりに使ったり、優先順位づけする際のツールとして活用できるかもしれません。オンラインツールは数を絞った方が混乱せず、スムーズに進められるので、ポストイット代わりに使うのは特殊な状況かもしれませんけど。
◆デザインスプリント、どうやって売り込めば良い?
書籍や講習、オンラインコース等でデザインスプリントをひと通り学んだし、仲間内で練習もした。そこそこファシリテーターとしてイケる気がするんだけれど、実際のところ、社内外でデザインスプリントを売り込んでいくにはどうしたらよい?という課題がデザインスプリントのコミュニティでよく話題になります。この「最初の一歩問題」はどの業種、どの業界でも同じかもしれませんが、いくつか方策があります。
このニュースレターでも何度か紹介している A&J Smart の CEO Jonathan Courtney 氏は、より多くの顧客を得るために、次の3冊の本を紹介しています。幸いなことに2冊は翻訳本が入手できます。
●勝ちたい中小企業社長のための 実践1ページ・マーケティング戦略
原題は “The 1-Page Marketing Plan” です。「勝ちたい中小企業社長」というタイトルのせいで、多くの想定読者が「自分には関係無い本だな」と敬遠している気がしますが、内容的にはとても良い本です。原書が独特のノリで書かれており、翻訳本もとっちらかっていて読みづらいのですが、書いてある内容は素晴らしく役立つことばかりです。
ネット広告に無駄な費用をかけず、少ない労力で見込み客を獲得する方法が、その根拠や期待される効果とともにわかりやすく紹介されています。本書で紹介されているのは……
適切な市場を選ぶ方法
説得力のあるメッセージを発信する方法
SNSやメール、キャンペーンなど適切な媒体の活用方法
見込み客に関する情報を集め、仕事のタネを育てる方法
顧客が「お金を支払いたい!」と思うほどの信頼を築く方法
顧客を繰り返し利用してもらえるファンに変えていく方法
顧客からさらに多くの利用と費用を獲得する方法
親しい顧客にさらに新しい顧客を紹介してもらう方法
これらの戦略は優秀なメンバーが多数いて、膨大な広告費をかけられる大企業であれば、当たり前すぎて参考にならないかもしれません。けれども多くの人にとって、何かしら得る情報があり、少ない労力で競合に差をつける… というかそもそも競合と争わないで済むような納得感のあるマーケティング手法が紹介されています。
●Traffic Secrets 理想の顧客が流れ込む㊙ウェブ集客術
先ほどの「勝ちたい中小企業社長〜」に続いて、タイトルと表紙で損をしているな….と感じる書籍ですが、中身は素晴らしいです。一般的なマーケティング本とは少し違った切り口でマーケティングテクニックが紹介されています。切り口は次のとおり…..
あなたの理想の顧客は、そもそもどんな人?
理想の顧客は、いったいどこにいる?
売り込むためのきっかけ、ストーリー性、提案の提示方法は?
人に直接働きかける方法と、広告によって働きかけてもらう方法
見込み客を顧客に変えていく方法と、お得意様にする方法
自分に適したプラットフォームを活用する方法
残念ながら本書に書かれたことを実践すればすぐに山ほど仕事が舞い込んでくる!とはなりません。仕事につなげるためには試行錯誤が必要で、自分に向いた方法を選び取る必要がありますが、そのために本書の内容が大いに参考になるはずです。
●Million Dollar Consulting(洋書)
本書は一流のコンサルティング会社に所属するコンサルタントが、どのようにニーズを聞き出し、提案し、決して安くは無い報酬で顧客を獲得し、どのような成果で納得してもらうのかが紹介されています。コンサルタントの業務の流れ全てについて、著者の実体験とともに具体的に、とても仔細に紹介されています。本書で紹介されているコンサルティングの心構えは….
なぜスキーの先生は初心者の先に滑る?コンサルティングのあるべき姿とは
普通の人ができない領域で稼ぐ方法は?
労働時間を切り売りするのは止めよう
テクノロジーを使いこなす方法。テクノロジーに振り回されない方法
成長と拡大は必ずしも一致しない
著者は実際に米国のトップ企業リストFortune 500社に所属する340名以上の企業トップにアドバイスしてきた実績を誇ります。ひと月数回の1対1のコーチングに4万ドル(約440万円)、ブートキャンプとよばれる2,3日の集中講座の受講料が1人あたり2万5千ドル(約280万円)という脅威のトップコンサルタントです。もしかしたら翻訳本が出ないのも、これらのビジネスを阻害しない方策なのかもしれません。
Jonathan Courtney 氏は、デザインスプリントの仕事を始めた頃に、ここで紹介した3冊に大いに助けられたそうです。もし1冊だけオススメするとしたら “The 1-Page Marketing Plan” とのこと。僕も同意見で、たとえ中小企業の社長でなくとも皆さんもまず「勝ちたい中小企業社長〜」から読んでみましょう!
さて本題に戻って。デザインスプリントのコミュニティで議論されている「デザインスプリント、どうやって売り込めば良い?」への回答は、次のような内容です。
売り込む相手のことを充分に調査し、相手が何を求めているのかを把握すること
いつでも提出できる企画書を用意し、売り込む相手用にカスタマイズすること
「デザインスプリント」と言わないこと。専門用語を使わないこと
最後の項目には驚くかもしれませんが、デザインスプリントのことを知らない人に売り込みたいなら「デザインスプリント」と言わないことが最大のポイントです。あなたの課題を解決します!解くべき課題を見つけ出します!皆で共に考えるワークショップをしましょう!などとアプローチするのです。だれもデザインスプリントのことを知りたいわけではありませんし、方法が知りたいわけではありません。どんな手法でもかまわないので、自社の強みを生かした新製品を考案したり、解くべき課題を見つけ出し解決しさえすれば良いのです。
また、デザインスプリントを売り込む相手は社外の顧客だけではありません。社内や自分が関わりのあるプロジェクト、同僚が頭を悩ませているプロジェクトを手助けして成果があげられれば、巡り巡ってデザインスプリントの良さが広がっていきますし。この時のポイントは自分の手柄にせず、手助けしてあげた相手の手柄にしてあげること。そうすると後に良いことが起きるハズです。そうすれば何かのタイミングでデザインスプリントが効果を発揮できる新プロジェクトでも声をかけてもらえるハズです。
デザインスプリントを売り込む先、アピールする先として次のようなきっかけが考えられます。
伝えるべきは、まずは自分と繋がりのある人です。まったく仕事の見込みのない友人にデザインスプリントを紹介しても意味が無いと考えるかもしれません。けれども自分がどういうことをやっていて、どういうことが得意なのかを知ってもらえれば、誰かを紹介してもらえたり、何かのタイミングで声をかけてもらったり、何かチャンスがあるかもしれません。ただし興味も無いのにしつこく売り込むのは考えものです。
次に効果的なのは適切なイベントに参加し、自身の知見や経験を披露することです。自分が苦労して得た知見は、誰にも教えず内緒にしておきたいと考えるかもしれません。けれどもそんな1度聞いたくらいで真似できるような知見であれば、大したことはありません。情報は発信する人のもとに集まるようにできています。あなたが Give & Give の精神を大切に、損得抜きで行動すれば、適切な人に伝わっていくでしょう。
適切なきっかけ作りのために多分一番難しくて、一番効果があるのは「必要とされる時に必要な場所に居る」ことです。この一文からいろんな解釈ができます。デザインスプリント的なスキルが求められる職場やプロジェクトに居ること、ある一つの固定したビジネスを続ける企業ではなく、様々な事業やプロジェクト、さまざまな顧客を抱えるところに居ることです。なにもキラキラした都心の一等地にオフィスのある企業に勤めることが目的ではありません。デザインスプリントが真価を発揮するのは、実はITやデジタルとは無縁の業種の場合もあります。様々な業種の様々なタイプのデザインスプリントを体験することで、他業種の知見がまた違った業種に役立つ事例も数多く実感しています。
◆UX+ カンファレンスでの Jake Knapp 氏の講演
先日開催された UX+ Conference 2021 の Jake Knapp 氏の講演のオンライン配信に参加しました。デザインスプリントの初期段階、ビデオ会議ツール Google Meet のアイデアを検討したり、プロトタイプを作ったり。そういった現場で洗練され鍛え上げられたデザインスプリントについて、歴史的経緯ともに紹介する内容でした。
講演の中で述べられていて印象的だったのは3つ。
●会議室で良いアイデアだと思ったことも実際にはウケが悪いこともある
●意外なアイデアが高評価の場合もあり。リスクのある案も試すのが重要
●大きな進歩を得るには、時間的な制約がある中で判断し続けること
デザインスプリントは当初の目的であった、スタートアップや新プロダクトでの活用はもちろんのこと、現在はコンサルティング会社から古いタイプの大企業まで広がり、大学などの教育の現場でも活用されている。政府機関や非営利団体でも採用している事例もあり。みなさんも次の新しいプロジェクトを始める時にはデザインスプリントを取り入れることで時間を無駄にせず、適切なリスクを取りながら最も重要な仕事に集中することができるとのこと。デザインスプリントはチームビルディングも役立つ。「とにかくデザインスプリントを試してみて!」と講演を締めくくられていました。
◆毎回次回の予定を書いていますが、その通りにならないことも多数。ネタ帳から順次記事にしていくので、お待ちください!次こそリモートデザインスプリントに欠かせないオンラインツールの細かな使いこなし術を紹介する予定です(たぶん)。
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