デザインスプリントには欠かせない Time Timer 製のカウントダウンタイマーに、なんとデザインスプリントのバイブル本「SPRINT」の色と同じ「Time Timer MOD Sprint Edition」が登場しました!約9cm四方、手のひらサイズの小型版です。これがあるとデザインスプリントの気分が上がること間違いなし?! 現在、先行予約受付中です。
Time Timer MOD Sprint Edition https://www.timetimer.com/pages/sprint
この Design Sprint Newsletter は substack という配信プラットフォームを利用しています。メールで配信すると同時に、ブログのようにアーカイブとして残す機能があり、スマホやメールで読みやすく、オンライン時代に合ったさまざまな配慮が行き届いています。中にはこのsubstackだけで十分な年収を得ている配信者もいる、強力な配信プラットフォームです。substackではTwitterの140文字制限のように原稿を書いている途中で文字数が多くなると警告が表示されます。制限をあふれてから警告が出るのではなく、そろそろ多すぎると事前に知らせてくれます。そうすると残り文字数を意識しながら推敲しつつ文章を書くようになります。
substack上でいったん書き始めるとどんどん書き進められます。けれども書き始めるまでが辛い。これは人にもよると思います。なぜか最初の心理的壁を超えるのが大変なのです。デザインスプリントでも同じ、始めるのが大変で、はじめてしまえば、なんとか休み休み最後まで持ち込むことができると思っています。そしてsubstackもデザインスプリントもひと段落したところ、区切りのついたところで休憩に入ると再開するのが面倒になります。意外に思われるかもしれませんが「中途半端」なところで中断しておくと、次に再開しやすくなります。これは普段の仕事やプログラミングでも同じことが言えるかもしれません。
以前のニュースレターで、休憩を頻繁にとり、疲れる前に休むと良いことを紹介しました。実際、ずっと同じことを考え続けているとアイデアの視野が狭くなってきたり、何も新しいアイデアが出なくなってきたりします。そういったじっくりと考え、さまざまな情報をインプットした後に、ふと気を緩めたりリラックスする時間があると、そこで思わぬ良いアイデアが浮かんだりします。これは何もしないで「天からアイデアが降ってくるのを待っている」のではなく、考え尽くした後にリラックスするのが重要なポイントです。散々考えた後に、気分転換に散歩している時とか、シャワーを浴びている時、トイレに行った時、歯を磨いている時などにふとアイデアが思い浮かんだことはないでしょうか?
台湾のIT担当大臣、IQ180のプログラマとして最近メディアで取り上げられることの多いオードリー・タン氏は、就寝前にさまざまな情報に目を通してから寝ることで、起きた時には解決策が思いついているらしく、夢の中でも脳が働いているようです。「Humor over Rumor(噂よりもユーモアを)」というフェイクニュース対策として真実を面白く早く広める施策なども目覚めたら自然と思いついたアイデアだそう。
さらにこういった人間の心理的特性、脳の仕組みを活かした工夫として、デザインスプリントの各工程では、宿題なしで進めるようにしています。デザインスプリントでの時間を有効に使おうとし、事前にいろいろ参加者に作業をお願いしたり、調査やアイデア出しなどの宿題などを課しておくと、なんだか有効に時間を使っているような気がしますが、大抵はうまくいきません。理由は人によって事前に時間を使うことに対する考え方や、作業に割ける時間が異なることにあります。
それに宿題を全然やってこない人と、真面目に必要以上に宿題に時間をかけてくる人など、ばらつきが生じ、最初のスタート地点からして参加者の考えに差ができてしまいます。できれば事前に何かしてきて欲しいことをお願いせずに、デザインスプリントの最初に全員で時間を取って作業するなど、全員のスタート地点と到達点を同じくらいに揃える工夫をすると、その後のデザインスプリントもスムーズに進行することができます。
もしデザインスプリント参加者に何か事前にお願いしておくとしても「○○について、考えておいてください」くらいにし、そこでたいそうなアウトプットが完成していることをあまり期待せず、軽い課題にしておくと良いでしょう。軽い課題だけでも参加者のデザインスプリントスイッチがONになるはずです。
◆LDJ (Lightning Decision Jam) の紹介
Lightning Decision Jam、直訳すると「超速決定会議」といったところでしょうか。デザインスプリントを本気で実施すると、まる4日間、5日間、少なくとも2日間など、考えようによっては大層な時間がかかります。得られる成果と比べるととても短い時間だと思います。けれども一般的には丸一週間、普段の仕事とは異なるデザインスプリントに意思決定者を含め何人もの人が集まって時間を使うとなると大変な労力です。デザインスプリントの全行程を1日に短縮して実施することもあります。そういった場合は、検討内容が狭い範囲に限定されたり、どこかの工程での検討が物足りなくなります。
「議論しよう!」と単に集まっただけのミーティングでは、たいてい良い結果は導き出せません。結果が出せたと思っていても、弁の立つ人の意見に皆が影響を受けすぎてしまったり、議論したつもりになっているだけで実は良質で現実的なアイデアはほとんど無かったりするのです。デザインスプリントでは、議論をしているように思えますが、実は余計な議論を排除して良いアイデアを多く出し発散しつつも、その後収束させる流れをとっています。各自が考えた多様性のある案を持ち寄り、それについて話し合うことで自然と十分な時間、適切な議論をした以上の効果が得られます。
LDJは、1時間弱というデザインスプリントに比べるとはるかに短い時間で、アイデアを出し合い、一度は発散したアイデアを投票によって本当に良い案に収束させる手軽に使える割には効果のある方法です。LDJは課題発見、意思決定、問題解決、議論が必要な事柄ならなんでも使えます。
用意するものは、正方形と長方形のポストイット、投票用の丸シール2色(小さすぎると貼りづらくなり、またポストイットの色と同じだと見えなくなるので注意)、サインペン、カウントダウンタイマー(TimeTimerやキッチンタイマー)と、専任の司会進行役です。
司会進行役は、デザインスプリントの経験者でも良いですし、チームの中で順番に役割を担っても良いでしょう。LDJの進行役はアイデア出しや議論に参加してもかまいませんが、時間を計ったり議論が横道に逸れないよう「進行」に注意を払う役目を担います。
第1工程:課題、悩み、ミス、懸念を四角いポストイットに書き出す:7分
第2工程:書いたポストイットを壁に貼りながら素早く説明:一人につき4分
第3工程:もっとも重要な解決すべき課題に投票。一人2票、同じ案に2票投票してもかまいません。ここでは議論せずに他の人の影響をうけないよう無言で投票します:6分。
第4工程:選出された優先度の高い課題に対して HMW (How Might We ?)どのようにしたら課題が解決できるか?どうしたらもっとマシになるのか?を考え、長方形のポストイットに書き出します:6分
第5工程:HMWのポストイットに投票し、得票数の多かった HMWに対する解決策を考えます。ここでも議論せずに各自が自由に考えます。書き終わったポストイットは壁に貼りますが、各自が説明する時間はとりません。:7分
第6工程:貼られた解決策を各自が読みながら、もっとも適していると考える解決策に全部で6票投票します。各自はポストイットを読みながら投票します:10分
第7工程:得票数を見て、解決策の優先順位を発表します:30秒
第8工程:解決策の複雑度(難しさ・実現の困難さ)を横軸、その解決策の価値、その解決策が与える影響を縦軸にし、それぞれの解決策を並べます。一個だけに着目するとどこに貼るのか悩みますが、2つを比較するとどちらに価値があるのか、どちらが困難なのかが判断しやすくなります:10分
第9工程:LDJの目的にもよりますが、比較的簡単に実行できて効果が高い解決策を選び、その施策を実行するのに必要なステップを元のポストイットを書いた人に説明してもらいます。強豪ライバル対策等であれば、複雑度が高い施策を選ぶこともあります:5分
途中で落選していったアイデアや解決策にも有用なものがあり、また複雑で手間や時間がかかるけれども効果が高く、長期的に取り組んだ方が良い案などもあるでしょう。全てを記録として残し、有効活用しましょう。
ここで紹介された LDJ は、デザインスプリントのファシリテーションを専業とする A&J Smart社が推奨している方法です。動画での解説、ガイドブック他、各種リソースが < https://ajsmart.com/ldj > で無料公開されています。
◆なくてはならない?あると便利なツールたち
●ポストイット専用アプリ「Post-it®️」
ポストイットが大量に貼られた壁を撮影するだけで一枚一枚のポストイットを読み取り、個別の画像に分けて整理することのできる、無料の便利アプリです。ポストイットを貼り付ける際にお互いが重ならないように注意することと、3M社製の純正ポストイットの色でないと読み取り精度が著しく低くなることに注意すればとても便利に使えます。
iPhone 版:https://apps.apple.com/jp/app/post-it/id920127738
Android 版:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.mmm.postit&hl=ja
●ポストイットプリンター「nemonic」
ポストイットプリンターと紹介しましたが、正確に言うと、ポストイット風の裏面粘着紙の専用カートリッジに印刷できるスマートフォン用小型プリンターです。感熱式のためインクを必要としませんが、印字が若干薄くなる傾向があります。大量に同じ文字が書かれたポストイットを用意する必要があったり、できるだけ綺麗な活字で書かれたポストイットを用意したい時に重宝するでしょう。専用カートリッジ1個につきポストイットに換算して200枚分ほどの紙片が印刷可能です。印字内容を編集するiPhone用、Android用の無料アプリが用意されています。在庫限りで製品の販売が終了してしまう気配がするため、欲しい方はカートリッジも含め早めに入手すると良いでしょう。
Amazon リンク:https://amzn.to/3Bz4RiB
●書画カメラ「IPEVO DO-CAM」
何か手元で描いたものを参加者で共有する場合、スマホのカメラで十分代用可能です。けれどもペーパープロトタイプなどで描いたものを操作する時など、書画カメラがあると指先との両方が画面に映るのでとても便利です。スマホでも画面転送機能などを使えますが、長時間使い続けると発熱によって正常に機能しなくなる場合もあるため、プロトタイプ用、発表用に専用の書画カメラがあると安心です。折りたたんで持ち運べるタイプが便利で、画面に出すのにパソコンにUSB接続が必要なタイプと直接HDMI出力可能なもの、またその両方に対応した機種があります。安価な製品もありますが、ピントが甘かったりレンズが暗かったりするため、スマートフォンのユーザビリティーテストでよく使われている高品質なIPEVOシリーズがオススメです。持ち運びの有無やカメラ解像度、接続方式の違いで機種選定すると良いでしょう。
Amazon リンク:https://amzn.to/3zu8jZX
◆次回はリモートデザインスプリント用の便利ツール、気が向いたらデザインスプリントのイベント Relay のレポートなどをご紹介する予定です。
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